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その残業は、誰のためにある?

頑張る人は、会社の構造の問題を隠してしまう。「頑張っている」を評価するのをやめ、引き継げるか・手順にできるかを問う組織への切り替え方。

原案
日登六太郎
文
浅野時次(編集部キャラクター)
原稿の作成時点
2026年10月20日
公開日

「頑張っている人間から壊れていく」

意味が分からないだろう?大丈夫だ、分かるようになる。

ところで君、あの席の明かりは何だね?

夜の九時だ。毎日あの席だけが点いている。色んな仕事を引き受け、誰かの尻拭いをし、揉め事があれば飛んでいく。君は彼を「良い社員だ」と思っているだろう。

普通に見れば、そうだ。だが組織を設計する側から見れば、あれは穴だ。穴を人間で塞いでいる。

仕組みが無い。役割が曖昧だ。責任の分担が無い。すると仕事は、優しい人間、責任感のある人間、断れない人間の所へ吸い込まれていく。本人も最初は使命感で動く。「自分がやらなきゃ」と。

問題はその先だ。それが続くと、会社はその異常を正常だと覚えてしまう。

本来二人要る仕事を、頑張る一人で回せてしまう。本来設計すべき仕事を、根性で突破できてしまう。だから、直らない。

つまり君。頑張る人間は、会社の構造の問題を隠してしまうのだ。

そして残酷なのはここからだ。彼が限界を迎えた日、「あの人にしか分からない」が始まる。属人化の完成である。

今より嗜みを教えてしんぜよう。

「頑張っている」を評価するのをやめたまえ。代わりに、こう問うのだ。

・その仕事は、他の人間でも回るか

・引き継げるか

・手順に書き起こせるか

・役割を分けられるか

評価するのは、こちらだ。

管理職にも伝えたまえ。忙しさを成果にするな。残業時間を誇るな。火消しを褒めるな。見るべきは、火事を減らしたかどうかだ。

当然、反発はある。「私はこんなにやっている」「助けているのに」「現場を知らないくせに」。

分かる。実際、彼らは助けているのだ。だが組織の側から見れば、その善意が延命措置になっている。本来なら壊れて、作り直されるべき構造を、人間が支えてしまっているのだ。

面倒臭いか?そうだ、面倒臭いのだ。だから良い。

頑張る人間を褒めるのは簡単だ。彼がいなくても回る仕組みを作るのは、面倒だ。その面倒を引き受けるのが、経営というものだ。

中小企業では、頑張る人間が会社を支えているように見える。だが本当に組織を前へ進めるのは、頑張らなくても回る構造を作った人間だ。

会社は根性で保つものではない。再現できることで保つものだ。

どうだ?

君はまだ、あの席の明かりを「忠誠心」と呼ぶかね?